真人間として生きる

大学時代、金曜日の夜に居酒屋やクラブをはしごして朝まで遊ぶことがあった。レゲエ音楽がかかるクラブに行けば、そこでしか会わないクラブ友達がいて、難しいことを考えずに楽しい時間を過ごすことができた。ある金曜日に大学の友人から飲み会の誘いがあり、朝まで遊ぶつもりでその飲み会に参加した。どんな飲み会だったのか覚えていないが、いつもであれば1軒目を出た後は「さあ、次の店に行こうか」 となるのだが、その時は皆、帰っていってしまった。しかも、自分が帰る方面の終電は既に終わっていた。


仕方がないので、まず、クラブ友達がいるかもしれないクラブに行ってみた。すると、その日に限って友達はおらず、クラブで遊んでいる人も凄く少なかった。しばらくはそのクラブで時間を潰していたが、ほぼ人がいないクラブに、朝までただ居続けるのは無理だった。結果、タクシーで帰るという決断をした。ただし、帰宅するには自宅は遠すぎたので、自宅よりはかなり近い大学の研究室に戻ることに決めた。それでも大学までのタクシー料金には満たない金額しか持っていなかったので、とにかく行けるところまでタクシーに乗り、そこからは歩いて大学に向かうことにした。

 

タクシーに乗車して運転手さんに、「大学に向かって下さい。ただ、お金が円しかないので、その金額になったら降ろしてください。」と伝えた。深夜料金ということもあり、あっという間に伝えた金額に達した。「あ、この辺りで降ろして下さい。」というと、「こんな真っ暗で誰もいないところに降ろすことはできない。君は真面目そうに見えるから、とにかく大学まで乗せていく。メーターも戻すから、空車と思われないよう助手席に乗って。」と言われた。その後、大学に到着するまで、運転手さんと色々と話したと思うのだが、その内容は覚えていない。

 

大学に到着後、研究室に到着するまで泣きながら歩いた。ひとりぼっちになった後に触れた人の優しさや誠実さ、しっかり働いている人がいる中で自分は世の中に何の貢献もできていないこと、などの思いが頭の中を駆け巡って涙が出てきた。そのタクシーの運転手さんにはいつか恩返しをしないといけない。この出来事以降、運転手さんの名前と会社名のメモ書きを持ち続けている。もう20年が経ってしまった。真面目に生きている、という点では恩返しはできているかなあ。