レインフロー法

- Cycle Counting by Rain-flow method -

けんきゅうの研究所 Research Lab.:レインフロー法

たとえ金属であっても大きな力を加えると壊れます。例えば、包丁や刀も刃が欠けますよね。このように大きな力を加えると金属でも壊れるのですが、大きな力でなくても、繰り返して力を加えることで金属にき裂が発生し、き裂が大きくなって最終的には壊れます。このような現象を金属疲労と呼びます。例えば、針金を曲げる、元の形に戻す、ということを何回も繰り返すと、針金は折れますよね。これが金属疲労です。したがって、何か機械を設計する際には、金属疲労が起こらないように設計する必要があります。

 

同じ大きさの力が繰り返される場合の金属疲労は比較的簡単に避けることができます。つまり、良く使われる金属であれば、ある力を何回ほど繰り返すと壊れるか、というデータが存在します。なので、まず、設計する対象に力が何回ほど繰り返し作用するかを考え、その繰り返し数で金属疲労がどの程度の力で起こるかをデータから確かめます。そして、作用する力が金属疲労を引き起こす力より小さくなるように設計すれば、壊れることはありません。

 

ただし、同じ大きさの力ではなく、大きさがまちまちな力が繰り返し作用する場合は、話が少し複雑になります。自然を相手に稼働しているような風車や建設機械などには、風や悪路走行によって大きさが時々刻々と変化するような力が作用しますよね。このような場合は、ある期間にどの程度の大きさの力が何回発生したかを数えます。この数える操作を頻度解析と呼んだりします。そして仮に、大きさがAの力が50回、大きさがBの力が100回発生したとしましょう。前述の疲労寿命曲線から、Aの力だと150回の繰り返しで、Bの力だと200回で金属疲労で起こると判断できる場合、Aので力で寿命の1/3(=50/150)、Bので力で寿命の1/2(=100/200)を消費したと考えられます。最終的に、AとBの合計で5/6の寿命を消費したと考えるわけです。

 

時々刻々と変化する力の波形から、どのくらいの力が何回発生したかを数える「レインフロー法」という頻度解析の方法を、日本人の研究者、遠藤先生が提案しています(1)。レインフロー法の他にも数々の頻度解析法が提案されていますが、日本人が開発したレインフロー方が最も精度の良い数え方として世界の研究者に認知され、有名な規格にも採用されています。凄いことですよね。日本人としてすごく誇らしいです。

 

レインフロー法という名称ですが、当初提案された頻度を数える操作が、軒下から雨が滴り落ちる経路をたどる様子に類似しているため、そのように名付けられたようです。ただし、のちにもっと簡単な数え方が遠藤先生の研究室に在籍した学生さんによって発見されたそうです。最初から簡単な数え方を発見していたら、レインフロー法というオシャレな名前は付いていなかったということですね。面白いもんです。

図1 レインフロー法による頻度解析を簡単に実施する方法

ではどのように、簡単な数え方で波形から頻度をカウントできるのでしょうか。図1は、力の波形(厳密には応力の波形)から頻度をカウントする方法を簡単に説明したものです。この方法をものすごく簡単に説明すると、(A)波形から稲妻型を抽出して頻度1回(1 cycle)と数え、(B)残った波形を頻度1/2回(1/2サイクル)と数える、です。例えば、図1の「Original stress wave」には、「a → b → c → d」「e → f → g → h」「h → i → j → k」「l → m → n → o」の4個の稲妻型が含まれています。稲妻型とは、波形に含まれる連続した4個の頂点を線で結ぶと稲妻型になるものです。つまり、連続する4個の頂点①②③④に対して、① > ③ > ② > ④や、①<③<②<④ が成り立つものです。このように式で記載するとややこしいですが、見た目でも判別できますよね。稲妻型の大きさは、図1の右上側に示す通り、「a → b → c → d」は大きさ1(Range 1)、「e → f → g → h」「l → m → n → o」は大きさ2(Range 2)、「h → i → j → k」は大きさ3(Range 3)です。したがって、「Original stress wave」から抽出した稲妻型は、大きさ1の波が1回、大きさ2の波が2回、大きさ3の波が1回とカウントできます。

 

「Original stress wave」から4個の稲妻型を抽出した残りの波形が「Wave after extraction 1」です。この波形に対しても、稲妻型を探します。そうすると、大きさ6の稲妻型「e → h → k → l」を1個、見つけることができます。この稲妻型を大きさ6の波が1回とカウントして、それを取り除いたものが「Wave after extraction 2」です。この「Wave after extraction 2」には、もう稲妻型は含まれていません。このように稲妻型が抽出できなくなるまで処理(A)を続けます。そして残った波形に対して、最後の処理(B)として、波形を構成する各線分の大きさの波が1/2回(1/2サイクル)発生したとカウントします。つまり、始点からa点まで大きさ1の波が1/2回(1/2 cycle)、a点からd点まで大きさ4の波が1/2回(1/2 cycle)などと終点までカウントしていきます。

 

このように、まず、(A)稲妻型を抽出して1カウントしていき、(B)稲妻型が抽出できなくなった残りの波形の各線分の大きさは1/2カウントとすることで、力の大きさ毎に何カウント発生したかを求めることができます。簡単でしょ。過去にレインフロー法のプログラムの作成を試みたことがあります。インターネットや書籍などでレインフロー法を調べると、当初提案された、軒下から雨が滴り落ちる経路をたどる様子を模倣した頻度のカウント方法が記載されていました。このカウント方法のプログラミングはすごく面倒です。そこで、他に方法がないかと探し、たどり着いたのが以下の文献(1)であり、この文献に図1の方法が記載されていました。この簡単な方法だとプログラミングも簡単なので、無事にプログラムを作成することができたというわけです。