デジタルツイン、ヘルスモニタリング

- Digital twin, i.e., the health monitoring of machines -

けんきゅうの研究所 Research Lab.:デジタルツイン

私たち人間は健康診断や人間ドックなどで、健康か、異常が無いかをチェックしてもらいますよね。それと同じように、機械が正常に稼働しているかを診断することを、ヘルスモニタリングと呼びます。健康診断や人間ドックは一年に一回程度の頻度で受診する、定期的なチェックです。一方で、機械のヘルスモニタリングは、どちらかというと、常時、オンラインで機械のデータを収集して健康か(正常か)どうかを判断する技術を指すことが多いと思います。機械に対して定期的に行われるチェックは、定期点検と呼ばれることが多いですね。

 

2010年代、インターネットで機械と機械を接続してデータをやり取りするIoT(Internet of things)という言葉が出現し、流行してから、機械のヘルスモニタリングの研究開発が非常に活発になりました。特に、機械からのデータの時間的な変化を捉えて異常を検出する多種多様な方法が提案されており、これらはデータドリブン(Data-driven)の方法と呼ばれています。データドリブンの方法は機械の初期不良や突発的な故障など、明らかに機械の動き方が変化してそれがデータに現れるような場合に有効なので、既に様々な機械の異常診断に実用化されています。データドリブンの方法では、データの変化から異常を捉えるために、過去に異常が発生した時に収集したデータと、正常時のデータを比較して、異常の判定基準が決められます。過去に異常が発生したことが無い場合、判定基準が決められないので、データドリブンの方法は使えません。

 

これに対して、機械の動きを模倣する方程式(モデル)を作成し、それを実際の機械と同じように動かして機械に蓄積されるダメージを計算して異常や故障までの寿命を診断する方法があります。この方法では、異常が発生した時のデータが必要ないため、故障したことのない機械の診断に使うことができます。機械の動きを模擬するモデルは、デジタルツインと呼ばれたりします。実際の機械と同じように動く、デジタルの仮想機械です。

 

デジタルツインを使った機械の異常診断、寿命診断を行う際に課題となるのは、機械に含まれるどの部品のダメージを計算するか、という点です。自分が機械を運用する事業者ならば、機械に含まれる全ての部品が正常か、寿命がどの程度か調べたくなりますよね。また、1台の機械を対象にすれば良い場合は稀で、大抵の場合、運用している全ての機械(数十から数千、数万台)を診断することになります。複数の機械の全部品を対象にしてデジタルツインでダメージを計算するのは、計算の規模が大きくなりすぎるため事実上、不可能です。計算時間に関しては、スーパーコンピュータ富岳に代表されるように、近年の計算機の性能向上は著しいですが、ビジネスに富岳は使えないです。

 

そこで、部品毎ではなく、機械のコンポーネント毎にダメージを計算する方法をポンさんは提案しています。つまり、機械の部品であるボルト、歯車、軸受というような単位でダメージを計算するのではなく、機械のコンポーネントであるモーター、発電機、ファン、ケーシングというような単位でダメージを計算します。このようにコンポーネント単位での計算とすることで、機械1台に必要なダメージの計算回数が激減します。これならば、数十から数千、数万台の機械を対象にしたダメージ計算、すなわち、常時、オンラインでのヘルスモニタリングが可能というわけです。コンポーネントに蓄積されるダメージが大きな機械を選び、優先順位を付けて、チェックが必要な機械に対してのみ、コンポーネントに含まれる部品が健全で異常が無いかを確かめれば良い、という考え方です。この方法を、階層型のヘルスモニタリングと呼んでいます(図1)。デジタルツインでバーチャルに機械を動かし、このようなヘルスモニタリングで機械の健康をチェックする、SF映画で描かれていたような世界が実現されつつあります。

  1. 竹田憲生、亀山達也、”デジタルツインによる機器の健全性管理を実現する階層型構造ヘルスモニタリング”、日本機械学会論文集、2022、DOI: https://doi.org/10.1299/transjsme.22-00095
  2. Takeda, N., & Kameyama, T. (2020). Hierarchical structural health monitoring of wind turbines based on an overview of mechanical damage. Annual Conference of the PHM Society12(1), 7. https://doi.org/10.36001/phmconf.2020.v12i1.1149

 

図1 階層型の構造ヘルスモニタリング