がんの治療装置

- Cancer Therapy Apparatus -

がんの放射線治療というと、一般的にはX線による治療のことを指します。X線の他にも、陽子線や重粒子線を使った放射線治療というものがあります。陽子線治療というのは、原子を構成する要素の一つである陽子を患部に照射する治療方法です。また、重粒子線治療とは炭素などの粒子を患部に照射して治療する方法です。放射線治療はがん細胞が増殖しないように、がん細胞を破壊する治療法です。X線治療が既に存在するのに、なぜ、陽子線や重粒子線を使った放射線治療が開発されたのかご存知ですか。

 

実は、陽子線、重粒子線では、がん細胞の存在する患部に集中して、陽子や炭素を照射することができるのです。つまり、ピンポイントでがん細胞を破壊することができるのです。したがって、がん細胞の周辺に傷つけたくない組織がある場合、陽子線や重粒子線による治療が威力を発揮することになります。例えば、頭部や頸部の悪性腫瘍や前立腺がんなどに陽子線や重粒子線は威力を発揮します。また、陽子線や重粒子線は治療による身体へのダメージが少ないため、治療を受けた後、社会復帰に要する期間が短くて済むという利点もあります。以前は、陽子線や重粒子線による治療は保険が適用されませんでしたが、今は前述のようながんの種類であれば、保険が適用できる可能性があります。

 

ポンさんは陽子線治療の装置を軽量する研究開発に関わっていました。治療装置の中に患者さんを乗せたベッドが入っていき、その中で治療が行われるわけですが、当時、その装置はかなり重いものでした(例えば、重量が約150トンの装置もありました)。装置が重いと、その装置を据え付ける建物の床もしっかりと作らなければならず、治療施設全体の建設費用が高くなってしまいます。装置を軽量にすることで、建物の床を不必要に丈夫なものにする必要はなくなり、結果として治療施設の建設費を低く抑えることができます。建設費が安くなれば、患者さんが負担するがんの治療費も安くなるため、装置の軽量化によって社会に貢献できたと思っています。

 

ポンさんの母親はがんで亡くなりました。ポンさんは博士ですが、病気を治せる医学博士ではないので、母親には何もしてあげられませんでした。何のための博士号なのだろうと悲しくなりましたが、仕方がないですね。このページで紹介した放射線治療だけでなく、がんの治療方法全般が進化して、がんで亡くなる人が減ることを切に望みます。

 

  1. Norio Takeda and Panos Y. Papalambros, "A Heuristic Sequencing Procedure for Sequential Solution of Decomposed Optimal Design Problems", Structural Multidisciplinary Optimization, Vol. 45, Issue 1, (2012),  pp. 1-20, DOI: 10.1007/s00158-011-0664-5