- Cause of defects in products -
製品不具合の原因は明らかになっている
モーター、発電機、ダンプトラック、油圧ショベル、鉄道車両、風車、自動車部品など、ハードウェアの信頼性に関する課題に長い期間、取り組んできた。その過程で、製品出荷後の不具合の対策にも多く関わってきた。そして、不具合が起こる原因を分析し、防ぐ手立てを考えてきた。このような活動は特定のメーカーだけでなく、どのメーカーでも実施されている。まず原因を分析し、対策を立てるのは課題解決の王道だからだ。このような取り組みにも関わらず、長期間にわたり、製品不具合を低水準に抑えることができた、という話は聞いたことがない。
この事実を裏付ける根拠として、国土交通省自動車局が公表している図1の自動車のリコール件数の推移のデータを見て欲しい。大局的に見て、リコールの件数が増加していることが理解できる。そもそも車両保有数が増加しているからではないか、と思われる方がいるかもしれない。確かに車の保有数は年々増加している。一方で、新車の販売台数は1990年(平成2年)の777万台をピークに減少し、2018年(平成30年)は527万台と3割減の状況である。一般的にリコールは比較的新しい車で発生する。したがって、車の数が増加したためにリコールも増加したというより、新車の台数が減っているのに製品不具合は減らず、リコールの数は高止まりしている、と考えた方が良い。国産自動車に限って見ると(図2)、平成17年以降、リコール件数が高止まりしている傾向が顕著なことがわかる。何故、リコールの件数は高止まりしているのだろうか。
図1 自動車リコール届出件数および対象台数[総合](1)
図2 自動車リコール届出件数および対象台数[国産車](1)
それを読み解くには、リコールの原因分析の結果が参考になる。国道交通省自動車局はリコール件数の推移に加えて、毎年、不具合の原因を分析、分類した結果を報告している(2)。製品の設計に起因する不具合、製造に起因する不具合、およびその他に不具合の原因を分類を見てみよう(図3)。まず大局的には過去5年間、設計に起因する不具合の割合が、製造に起因するものを上回っていることがわかる。もう少し細かく見ると、設計に起因する不具合では「評価基準の甘さ、開発評価の不備」、製造に起因する不具合では「製造工程不適切、作業管理不適切」の割合が多い。そして、これらの原因が上位に並ぶ傾向は、ここ5年で大きく変化していない。つまり、不具合は同じような原因で、継続して発生している。以上から、令和2年こそ、設計起因の不具合の割合(51.4%)は製造起因の割合(47.1%)に近いものの、製品の設計段階において不具合の原因が作られるケースが多く(平成28年から令和2年の5ヶ年平均55.3%)、その傾向が継続していることがわかる。ちなみに対象を国産車に限ると、設計に起因する不具合の割合は5ヶ年平均で61.8%である(図4)。
したがって、設計段階で継続的に作り込まれる不具合の原因である「評価基準の甘さ、開発評価の不備」を集中的に取り除けば、リコールの件数を大きく減らすことができる、との結論を導き出せる。筆者の経験から考えると、この自動車のリコール原因分析のように、過去の製品不具合を分析し、その原因を既に特定している製品メーカーは多いはずである。このように対策すべき課題は明確なのに、一方で、製品不具合の数は減っていないのは何故だろうか。後続する記事ではその理由と、筆者が考えるリコールおよび製品不具合の低減手段について、意見を述べたいと思う。
図3 不具合発生原因別のリコール届出件数およびその割合【全体】(平成28年度~令和2年度および5ヵ年平均)(2)
図4 不具合発生原因別のリコール届出件数およびその割合【国産車】(平成28年度~令和2年度および5ヵ年平均)(2)
この記事の最後に、製品の不具合を分析するにあたり、筆者が注意すべきと考えていることを記載しておきたい。分析での分類の仕方は千差万別であり、分析者の意思が入りやすい。例えば、製品の設計技術ではなく、製造技術に造詣が深いエンジニアがデータを分析した場合、どうしても製造起因の不具合に気が向いてしまい、それを対策すべきという結論を導く可能性がある。いわゆる我田引水である。したがって、ある組織で分析が継続して行われている場合、不具合の原因の分類方法が現在のままで良いかを定期的に見直すべきである。先人の考えた分類を盲目的に信じると、主観の入った偏った分類になっている可能性がある。
「多様性の科学」(3)で述べられているように、同じ組織に属する人間には、考え方が画一化されるクローン化が起こりやすい。この本の中で、米国のCIAが同種の調査員で構成されていたために、イスラム世界の考え方が理解できなかった。これが2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロを防ぐことができなかった一因であると指摘されている。製品不具合を分析するエンジニアがメーカーに入社後の教育により、同種の考え方しか持ち合わせていなければ、重大な分析の誤りが起こり得る。このような画一化による分析の偏りを防ぐために、最初に取り上げた自動車業界のリコールの分析など、他の業界の分析を参考にして、中立的な分析ができているかに、常に留意すべきである。自身の所属する組織内のデータ分析と併せて、他の業界の分析結果も示し、比較して結論を導き出せば良い。これにより、自身の組織のデータ分析の客観性を保つことができる。