モノづくりエンジニアの能力強化

- Augmented MONOZUKURI Engineer -

かつては性能と品質の高さで世界を席巻した日本のモノづくり。今や製品不具合の継続的な発生や低い労働生産性に悩まされ、息も絶え絶えな状況である。このような状況を打破し、再び日本のモノづくりを輝かせる「未来のモノづくり」とは、どのようなものだろうか。

 

製品不具合の背景・課題は、「エンジニアの業務過多、疲弊」「進まぬ知識・技術移転」と分析されている(1)。このような課題を解決する一つの手段は、近年登場した破壊的技術のモノづくり分野への導入だろう。破壊的技術とは、AI、ブロックチェーン、メタバース、量子コンピュータなどだ。これらの破壊的技術で業務を効率化し、労働生産性を向上させることに、まず取り組むべきだろう。ただ、このような提案は多くのコメンテーターが言っており、業務のDX(Digital Transformation)などと一括りで扱われているため、腑に落ちていない人も多いのではと思う。では具体的に何をすべきか。

 

エンジニアの業務を破壊的技術が徹底的にサポートし、以下の(a)-(c)という方向にモノづくりを進化させるのが良いだろう。

  • 破壊的技術が業務を肩代わりする・・・(a)
  • 破壊的技術が業務の遂行を加速する・・・(b)
  • 破壊的技術がエンジニアの能力を強化する・・・(c)

(a)は現在エンジニアの担当している業務のうち何%かを破壊的技術に担わせる、というものである。従来の知識の利用で事足りる業務であれば、人間が担当する必要はない。エンジニアの業務過多をこれできる。

 

(b)はエンジニアが業務で作成する書類や図面のドラフト版の作成を破壊的技術が担い、完成までのリードタイムを短縮する、というもの。破壊的技術の一つである生成AIにプログラムを書かせ、そのプログラムを人間が手直しして仕上げる。このようなソフトウェア開発は、もはや当たり前のように行われている。これと同じように、モノづくりに必要な書類や図面のドラフトの版を生成AIなどに任せることができる。図面の自動生成については、Generative designと呼ばれ、近年開発が進んでいる技術の一つである(2)。これで労働生産性を向上できる。

 

(c)はエンジニアを破壊的技術でスーパーエンジニアに強化するというもの。具体的には人間の脳(有機的な脳)に加えて、外部に人間の脳に相当する第二の脳(無機的な脳)を用意し、両方の脳を使って業務をこなす。第二の脳はクラウドに配置されていて、モノづくりに必要な知識がデータとして蓄積されている。人間の脳と比較して、第二に脳は容量を拡張でき、必要に応じて情報を追加していける。このような人間の能力拡張という考え方は、シンギュラリティ大学の創始者であるレイ・カーツワイルが言及している(3)他、1990年代に既に攻殻機動隊(4)の世界で描かれている。

 

人間の能力強化という話を出すと、「それはSFの世界でしょ」と思われるかもしれない。しかし実際に我々は既に、第二の脳の恩恵を受けている。スマートフォンである。何かにつけて、スマートフォンで検索したり、SNSで情報収集や意見交換をしていますよね。それがもう少し技術進化した状態を考えれば、人間の能力強化はSFの世界ではないことが実感できる。このような脳の機能拡張によってエンジニアはスーパーエンジニアとなり、「進まぬ知識・技術移転」の課題も解決される。

 

モノづくりの分野での破壊的技術によるエンジニアの強化の動きは既に始まっている。モノづくりエンジニアに、業務に関連する情報をリアルタイムに提供する「モノづくりブレインサービス」などである(5)。このようなサービスは、破壊的技術の進化とともに今後さらに充実すると予想できる。このような仕組みを世界に先立って日本の企業が取り入れ、高品質なプロダクトを高い労働生産性で提供する、新たな日本流モノづくりをぜひ実現して欲しい。

  1. 吉田栄介、”高品質と低コストのジレンマ:自動車リコール原因分析からの考察”、三田商学研究、第49巻第7号、2007年2月
  2. 例えば、Autodesk、What is generative design?、https://www.autodesk.com/solutions/generative-design
  3. 吉成真由美[インタビュー・編]、レイ・カーツワイル他、”人類の未来 AI、経済、民主主義”、NHK出版新書、2017年4月
  4. 士郎正宗、攻殻機動隊(1)、講談社コミックス、1991年10月
  5. エンジニアリングブレイン New Era of Japanese MONOZUKURI、https://engineering-brain.com