キャリア

キャリアという言葉を聞き始めたのは、会社で上司と面談をするようになってからである。入社してから数年も経つと面談の度に、「今後のキャリアパスをどう考えているのか」という質問を受け始めた。正直なところ、会社で何かの役職に就きたくて就職した訳ではなく、単に、この会社に入れば面白いことが出来そうだと思って入社したので、キャリアを尋ねられても回答は持っていなかった。なので、一番最初にキャリアについて質問された時に、純粋な私は「海外から招待講演を依頼されるような研究者になりたいです。」と答えた。その結果、上司は失笑。つまり上司は、「〇〇を牽引する部長をめざします」とか、「〇〇分野の技術をリードする課長になります」など、会社の役職を答えて欲しかったのである。

 

これに懲りた私は次回の面談から一貫して「フェローをめざします。」と答えるようにした。「フェロー」は技術系で一番上と認識されている実在する職位である。したがって、「フェローになります。」という回答に対しては、「そ、そうか。」と上司は納得したのか、していないのか、よくわからないような反応をするのであった。

 

このような面談の際のやり取りに、就職してからずっと違和感を感じていた。だが、「プロティアンキャリア」という考え方を知った時、今までの違和感の正体がわかり、解放された気分になった。プロティアンキャリアとは、以下のようなキャリアの考え方である。

 

・キャリアとは、組織の中ではなく、個人によって形成される

・キャリアとは、変化に応じて個人にとって必要なものに変更できる

 

キャリアの所有者は組織でなく個人、キャリアの目的は組織内での昇進や権力ではなく個人の自由や成長、キャリアの成果は組織内の地位や給料でなく個人の自己実現や幸福度とのことである。従来のような組織主体のキャリアの考え方が、違和感の正体だったのだ。

 

また、USJの入場者数を大幅に伸ばしたことで有名な森岡毅氏の著書の中で、会社を選ぶのではなく、「職能(スキル)」を選び、その職能を磨き続けて生きていくことを森岡氏は勧めています。つまり、家庭の事情などで今の会社で働き続けられなくなったとしても、職能を身に付けていれば別の会社で働き続けられます。自分を取り巻く状況でなくても、会社の事業ポートフォリオの変更などで、会社の都合で会社から放り出される事態も起こり得ますからね。森岡氏の場合、「マーケター」という職能を選択し、その職能を活かしたキャリアを歩んでいる、ということです。

 

なので、自分を主体と考え、自分が活躍し続けられる職能を伸ばし、時代や生活に合わせて柔軟にキャリアを歩んでいけば良いのだと、今は納得して研究者兼エンジニアのキャリアを選んでいる。